legal office(法律事務所)に恋の罠
「それで、ご相談とはどう言った内容でしょうか?初めに言っておきますが、お話を聞いたからといって、対応できるかどうかは別だということをご理解下さい」

「ええ、わかっています。しかし、お話を聞いていただけるだけでもありがたい」

奏は、和奏をジッと見つめると穏やかに笑った。

お酒でピンク色に頬が染まっているからか、いつもと同じアイアンフェイスなのにとても可愛く見える。

"俺も大概イカれてるな"

と、奏は自分の感情を嘲笑した。

奏は姿勢を正して真剣な面持ちで告げた。

「Hotel Bloomingの顧問弁護士になって頂けませんか」

「お断りします」

即答だった。

こんな事態は想定済みだ、簡単に諦める気ならこんな話は初めから持ち込まない。

奏は負ける戦は挑まないし、負けるつもりもない。

「女性社員限定の相談顧問で構わない、考えて頂けませんか?」

和奏が女性という言葉に弱いことは周知の事実だ。

そこからジワジワと門戸を広げて、こちらサイドに引き込めばいい。

「女性社員が現に困っているということですか?」

大きな瞳をゆっくりと見開いて前髪を耳にかける仕草が色っぽい。

奏は、抱き締めてキスしたい衝動に駆られるが、

"まだだ、理性を働かせて、まずは信頼を得ることが先決だろ"

と自分の中の理性と戦う。

「ええ、セクハラ、パワハラ、マタハラ、付きまとい行為・・・。顧客だけでなく、上司や同僚からの行為に悩む社員が複数います。力になって頂けませんか?」

潤んだ瞳は、もう、半分、奏の戦略に陥落しようとしている状態を映し出している。

和奏の優しさにつけこんでいるのは重々承知だ。

もちろん、和奏に弁護士としての力を貸して欲しいのは大前提だ。

しかし、それ以上に彼女と過ごすチャンスがほしい。

正攻法では、今の彼女に近づく機会さえ与えられないのはわかりきっていた。

奏は欲しいものを目の前にして、スゴスゴと諦める柔な人間ではない。

「和奏さんのご迷惑になるようにはしません。・・・少し、私の話を聞いていただけますか?」

ほんの少しお酒を飲んで警戒を解いた和奏は、無敵のアイアンフェイスを崩す程度には、奏に打ち解け始めていた。


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