legal office(法律事務所)に恋の罠
「・・・お話は分かりました。でも、Hotel Bloomingは歴史のあるホテルです。これまでも、お抱えの弁護士が無難に対応してきたのではないのですか?」
和奏の質問に、奏が僅かに苦笑して肩をすくめた。
「・・・この度、祖父の代から雇用してきた法務部付けの影山弁護士が退職しました。彼は75歳までの45年間、当ホテルで勤めあげました」
奏はため息をつく。
「彼はよくも悪くも頑固で昔気質の人物です。もちろん弁護士ですから口には出しませんでしたが、男尊女卑とまではいかないまでも彼の考えはそれに近かった」
和奏の眉間にシワが寄る。
そんな人物を、和奏は一人知っていたからだ。
「女性の雇用が増えているにも関わらず、就労規定の改訂は行われない。それもこれも、祖父がお世話になった影山弁護士に頭が上がらなかったからだ」
奏は、和奏の顔つきが変わったことを見逃さなかった。
明らかに関心を向けている。
「影山弁護士が体調不良と記憶力の低下を理由に企業弁護士を降りるとなったとき、私の頭の中には和奏さんの顔が浮かびました。当ホテルもこれまで通りの対応を続けていては先行きが怪しくなる」
奏は、テーブル越しに身を乗り出して、和奏の両手をしっかりと握った。
「社員は宝です。女性の、和奏さんの力を私に貸してほしい。これまで泣き寝入りすることの多かった女性従業員を守るために・・・」
和奏の瞳が、奏の真剣な瞳に固定される。
「女性職員限定の顧問なら・・・」
「しかし、就業規定を抜本から変えるには、それなりの地位がいります。ホテル全体の顧問弁護士ということで契約をして、男性への対応は、山崎弁護士のお力を借りるということでいかがですか?」
「山崎弁護士ですか?叔父の方がそれでよいのなら検討する余地はありますが・・・」
「本当ですか?」
奏は徐にスマホを取り出すと、すかさず山崎庄太郎に電話をかけた。
唖然とする和奏の前で嬉しそうに庄太郎と会話をする奏。
「はい、和奏さん、山崎弁護士からは同意をとれましたよ」
渡されたスマホを取ると
「和奏、私はその契約で構わないよ。お受けしてあげなさい」
と、庄太郎からの承諾という名の命令が下された。
「・・・わかりました。お受けします」
スマホの通話終了ボタンを押し、迷惑そうにスマホを奏に返す和奏。
奏は、まんまと自らの手に落ちてきた和奏に満足げに頷いた。
実は、この話は、事前に山崎弁護士から了承を得ており、ほぼ決定事項であったのだ。
育ての親である山崎庄太郎に、和奏は頭が上がらない。
だからこそ、何も知らない和奏は庄太郎の命令に従い、真剣に今後のことを考えて頭をフル回転させようとしているのだ。
「和奏さん、早速ですが、こちらの契約書にサインを頂きたい。山崎弁護士からはすでにサインを頂いております。これからは何かとご相談することも多くなると思いますので、連絡先の交換もお願いします」
奏の勢いに呑まれている和奏は、自然と契約書を手にとってしまっていた。
しかも、テーブルに置いていた和奏のスマホを手に取り、勝手に赤外線通信を終えてしまった奏を止める術もなかった。
仕方なく、一語一句見逃さずに契約書に目を通そうと思うが、頭に入ってこない。
きっとお酒のせいに違いない、それもこれもみんな和奏を置き去りにした湊介のせいだ・・・。
"叔父さんがやれというのなら・・・問題ない?"
少しヤケになった和奏は、契約書にサインをした。
ニコニコと笑う奏の囲う甘い檻のなかに、ジワジワと追い詰められていくことになるとは知らずに・・・。
和奏の質問に、奏が僅かに苦笑して肩をすくめた。
「・・・この度、祖父の代から雇用してきた法務部付けの影山弁護士が退職しました。彼は75歳までの45年間、当ホテルで勤めあげました」
奏はため息をつく。
「彼はよくも悪くも頑固で昔気質の人物です。もちろん弁護士ですから口には出しませんでしたが、男尊女卑とまではいかないまでも彼の考えはそれに近かった」
和奏の眉間にシワが寄る。
そんな人物を、和奏は一人知っていたからだ。
「女性の雇用が増えているにも関わらず、就労規定の改訂は行われない。それもこれも、祖父がお世話になった影山弁護士に頭が上がらなかったからだ」
奏は、和奏の顔つきが変わったことを見逃さなかった。
明らかに関心を向けている。
「影山弁護士が体調不良と記憶力の低下を理由に企業弁護士を降りるとなったとき、私の頭の中には和奏さんの顔が浮かびました。当ホテルもこれまで通りの対応を続けていては先行きが怪しくなる」
奏は、テーブル越しに身を乗り出して、和奏の両手をしっかりと握った。
「社員は宝です。女性の、和奏さんの力を私に貸してほしい。これまで泣き寝入りすることの多かった女性従業員を守るために・・・」
和奏の瞳が、奏の真剣な瞳に固定される。
「女性職員限定の顧問なら・・・」
「しかし、就業規定を抜本から変えるには、それなりの地位がいります。ホテル全体の顧問弁護士ということで契約をして、男性への対応は、山崎弁護士のお力を借りるということでいかがですか?」
「山崎弁護士ですか?叔父の方がそれでよいのなら検討する余地はありますが・・・」
「本当ですか?」
奏は徐にスマホを取り出すと、すかさず山崎庄太郎に電話をかけた。
唖然とする和奏の前で嬉しそうに庄太郎と会話をする奏。
「はい、和奏さん、山崎弁護士からは同意をとれましたよ」
渡されたスマホを取ると
「和奏、私はその契約で構わないよ。お受けしてあげなさい」
と、庄太郎からの承諾という名の命令が下された。
「・・・わかりました。お受けします」
スマホの通話終了ボタンを押し、迷惑そうにスマホを奏に返す和奏。
奏は、まんまと自らの手に落ちてきた和奏に満足げに頷いた。
実は、この話は、事前に山崎弁護士から了承を得ており、ほぼ決定事項であったのだ。
育ての親である山崎庄太郎に、和奏は頭が上がらない。
だからこそ、何も知らない和奏は庄太郎の命令に従い、真剣に今後のことを考えて頭をフル回転させようとしているのだ。
「和奏さん、早速ですが、こちらの契約書にサインを頂きたい。山崎弁護士からはすでにサインを頂いております。これからは何かとご相談することも多くなると思いますので、連絡先の交換もお願いします」
奏の勢いに呑まれている和奏は、自然と契約書を手にとってしまっていた。
しかも、テーブルに置いていた和奏のスマホを手に取り、勝手に赤外線通信を終えてしまった奏を止める術もなかった。
仕方なく、一語一句見逃さずに契約書に目を通そうと思うが、頭に入ってこない。
きっとお酒のせいに違いない、それもこれもみんな和奏を置き去りにした湊介のせいだ・・・。
"叔父さんがやれというのなら・・・問題ない?"
少しヤケになった和奏は、契約書にサインをした。
ニコニコと笑う奏の囲う甘い檻のなかに、ジワジワと追い詰められていくことになるとは知らずに・・・。