legal office(法律事務所)に恋の罠
「こちらがこの度、当ホテルの顧問弁護士になった山崎法律事務所の夢谷和奏さんです」
社長に案内されたのは、役員フロアにある会議室だった。
そこには、社長秘書をはじめ、COO(最高執行責任者),CFO(最高財務責任者)、副社長、専務などが顔を揃えて待っていた。
当然、前顧問弁護士が決めた会則の影響か、役職には女性が見当たらない。
こうしたところが旧体制と言われる所以なのだろうと和奏は思った。
副社長や専務はともかく、COOとCFOは奏より年齢が少し上くらいで十分若い。
この人たちに認められるか若干の不安が残るが、任されたからにはやるしかない。
「夢谷和奏です。これまでは女性専任の弁護士として法律相談や民事、刑事訴訟に対応してきましたが、当法律事務所の山崎弁護士のアシスタントとして労務相談も取り扱ってきました。皆様のお役にたてるよう、全力を尽くす所存ですのでよろしくお願いいたします」
和奏は無表情で愛想はないが、言葉は丁寧で誠実だという評判を得ていた。
集まっていた上役も、一応にその評判に納得した。
何よりも、信頼する桜坂社長に選ばれた人物なのだ。
表だって反対の意を表明できる強者はいない。
「これから1週間、夢谷弁護士には社内の現状をリサーチしていただき、最適な法務整理を行って頂く。社内の会則や就労規定などの案が纏まったら、再度、皆さんに集まっていただき決定としたい」
社長の一存で決まるのではないと知った面々は、ホッとした表情を浮かべて同意を示し、会議室をあとにして行った。
「和奏さんのお部屋はこちらですよ」
続いて案内された部屋は、なんと社長室と透明なパーテションで仕切られただけの部屋・・・。
いや、社長室内に無理やり設置させられたといっても過言ではない状態の部屋だった。
「奏さん、これでは相談者が気楽に訪れることはできません!」
珍しく声を荒げた和奏に対し、奏は嬉しそうに答えた。
「大丈夫です。この透明なパーテションは防音になっていますし、面談時にはこのように視界が遮ることができます。出入口も別々ですよ」
奏はそう告げると、リモコンを操作して、一瞬で透明なパーテションをスモークガラスに変化させた。
このようなシステムは、病院の診察室などでも取り入れられている。
和奏もクライアントがDV被害に合って、病院に付き添った時に見たことがあった。
「まさか、影山弁護士もここを使用なさっていたわけではないでしょう?」
「もちろん、彼は役員フロアに別室を設けていました」
「それなら私もそこで構わない・・・」
「却下です」
笑顔で断る奏の様子が、和奏には理不尽すぎて納得がいかない。
「男性を苦手とする和奏さんがこの環境に慣れるまでは、目をかけてくれと山崎弁護士にも頼まれています」
"それにしても近すぎでしょ"
和奏はついつい心の中で突っ込みを入れてしまったが、余りのことに言葉もでない。
「大丈夫です。決して悪いようにはならない」
「・・・。この環境が不適切だと判断した場合は、すぐに場所を変えて頂きます。よろしいですね」
溜め息をついた和奏は仕方なく、同意を示した。
しかし、社長や社長秘書から、パーテション越しに常に見られてしまうというこの環境こそが、パワハラやセクハラを得意とする男性社員から和奏を守ってくれるものになるのだということを、案外早期に和奏は実感することになる。
社長に案内されたのは、役員フロアにある会議室だった。
そこには、社長秘書をはじめ、COO(最高執行責任者),CFO(最高財務責任者)、副社長、専務などが顔を揃えて待っていた。
当然、前顧問弁護士が決めた会則の影響か、役職には女性が見当たらない。
こうしたところが旧体制と言われる所以なのだろうと和奏は思った。
副社長や専務はともかく、COOとCFOは奏より年齢が少し上くらいで十分若い。
この人たちに認められるか若干の不安が残るが、任されたからにはやるしかない。
「夢谷和奏です。これまでは女性専任の弁護士として法律相談や民事、刑事訴訟に対応してきましたが、当法律事務所の山崎弁護士のアシスタントとして労務相談も取り扱ってきました。皆様のお役にたてるよう、全力を尽くす所存ですのでよろしくお願いいたします」
和奏は無表情で愛想はないが、言葉は丁寧で誠実だという評判を得ていた。
集まっていた上役も、一応にその評判に納得した。
何よりも、信頼する桜坂社長に選ばれた人物なのだ。
表だって反対の意を表明できる強者はいない。
「これから1週間、夢谷弁護士には社内の現状をリサーチしていただき、最適な法務整理を行って頂く。社内の会則や就労規定などの案が纏まったら、再度、皆さんに集まっていただき決定としたい」
社長の一存で決まるのではないと知った面々は、ホッとした表情を浮かべて同意を示し、会議室をあとにして行った。
「和奏さんのお部屋はこちらですよ」
続いて案内された部屋は、なんと社長室と透明なパーテションで仕切られただけの部屋・・・。
いや、社長室内に無理やり設置させられたといっても過言ではない状態の部屋だった。
「奏さん、これでは相談者が気楽に訪れることはできません!」
珍しく声を荒げた和奏に対し、奏は嬉しそうに答えた。
「大丈夫です。この透明なパーテションは防音になっていますし、面談時にはこのように視界が遮ることができます。出入口も別々ですよ」
奏はそう告げると、リモコンを操作して、一瞬で透明なパーテションをスモークガラスに変化させた。
このようなシステムは、病院の診察室などでも取り入れられている。
和奏もクライアントがDV被害に合って、病院に付き添った時に見たことがあった。
「まさか、影山弁護士もここを使用なさっていたわけではないでしょう?」
「もちろん、彼は役員フロアに別室を設けていました」
「それなら私もそこで構わない・・・」
「却下です」
笑顔で断る奏の様子が、和奏には理不尽すぎて納得がいかない。
「男性を苦手とする和奏さんがこの環境に慣れるまでは、目をかけてくれと山崎弁護士にも頼まれています」
"それにしても近すぎでしょ"
和奏はついつい心の中で突っ込みを入れてしまったが、余りのことに言葉もでない。
「大丈夫です。決して悪いようにはならない」
「・・・。この環境が不適切だと判断した場合は、すぐに場所を変えて頂きます。よろしいですね」
溜め息をついた和奏は仕方なく、同意を示した。
しかし、社長や社長秘書から、パーテション越しに常に見られてしまうというこの環境こそが、パワハラやセクハラを得意とする男性社員から和奏を守ってくれるものになるのだということを、案外早期に和奏は実感することになる。