legal office(法律事務所)に恋の罠
「それでは施設内を案内しましょうか」

続いて、奏は和奏を連れてホテル中を案内した。

客室では、ベッドメイキングや清掃担当者を、

レストランでは支配人やコック、サーブ担当者を、

レセプションでは、受付や会計担当、ポーターなどを紹介してくれた。

社員は宝"

と宣言したように、奏の従業員に対する態度は公平で、とても好感が持てるものだった。

「ご相談があれば遠慮なく相談室を訪ねて来てくださいね」

奏に付き添ってラウンドする和奏も、僅かに芽生えた奏への信頼と安心感からか、自然と笑顔で従業員と接することができていた。

「夢谷弁護士って、ほんと若社長とお似合いだよね。あんな優しくて綺麗な人が顧問弁護士になるなんて先週までは想像もしてなかった」

「本当だよね。待遇が悪くて辞めていった同僚にも教えてあげたいくらいだよ。もう少し待ってたら状況が変わってたよって」

話しかけられた高齢の清掃員の話に真剣に耳を傾けている和奏には、他の従業員のコソコソ話は聞こえていないようだ。

就業中の無駄話は感心できないが、待遇云々の話は本当だったので奏は頭が上がらない。

いくら奏一人が、これまでの現状を憂いて社員一人一人を大切にしようとしても、就労規則や職務規定といった根本的な問題が解決されなければどうにもならなかった。

幸い、海外の系列ホテルの方までは影山弁護士の影響は及ばす、訴訟も多いこともあり、各国の敏腕弁護士によりコントロールされ、法務部がらみの問題は日本独自のものであった。

持って生まれた優れた容姿だけでなく、真剣に相談者の話に耳を傾ける和奏の真摯な姿が、ホテル従業員には好感触のようだ。

後は、和奏が打ち出す新案に対して、どこまで旧体制派が受容できるか・・・。

和奏に対する期待の度合いが大きいと同時に、彼女をどんな悪意からも守りぬきたいという男としての信念が、奏の中で大きく膨らんでいった。
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