legal office(法律事務所)に恋の罠
「・・・和奏?」

ホテル内の案内が終盤にさしかかり、ウエディングゾーンに差し掛かった時だった。

緩くカールした前髪とサイドの髪に、後ろを大きく刈り上げた今風の髪型。

大学生といっても通じそうな20代とおぼしき可愛らしい風貌の男性が和奏に声をかけた。

「小池くん・・・」

「ああ、やっぱり和奏だ。元気そうだね。また会えるなんて嘘みたいで嬉しいよ」

和奏に"小池"と呼ばれた男性の隣には、あまり背の高くない彼よりも小柄な女性が寄り添っている。

小池は嬉しそうに和奏と奏を見比べると、納得したように頷きながら

「和奏も、ウエディングプランの申し込み?」

と尋ねてきた。

「いえ、私はここの顧問弁護士なの。それに、この方は・・・」

「お客様、この度は当ホテルをご利用いただき誠にありがとうございます。私は当ホテルの社長を勤めます桜坂と申します。夢谷さんには公私ともにお世話になっております」

奏は卒のない態度で名刺を差し出した。

よく見れば、右胸には立派な名札がついている、はずだ。

"社長"という役職名と"公私ともに"という言葉に驚いたのか、小池は一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔に戻って言った。

「頼りになる人が側にいてくれるんだね。安心した。桜坂さん、和奏をよろしくお願いします」

不安そうに小池の袖を引っ張る彼女の横で、小池が奏に頭を下げる。

「ごめんね、綾。彼女が前に話した夢谷さんなんだ」

綾と呼ばれた彼女の視線が、ゆっくりと和奏を捉える。

「長谷川綾です。小池さんとお付き合いしています」

堂々と宣言された和奏は、その不躾な言動に腹を立てるでもなく、心から嬉しそうに

「小池くんも、今度こそ一緒に幸せになれる人と巡り会えたのね。ご結婚、おめでとうございます。お幸せに」

と言って笑った。

和奏からの意外な祝福の言葉に、綾の目から嬉し涙が溢れる。

「はい、小池さんは必ず私が幸せにしますから安心してください」

と泣き笑いした。

「仕事中にごめんね。結婚式ではお世話になると思うけど、和奏には迷惑かけないから」

「迷惑だなんて、私はただの顧問弁護士だし、ここに在駐しているわけではないから気にしないで。綾さんも、ね?」

何かを吹っ切ったかのように頷く小池と綾。

そして、和奏に手を振ってから、満足げにお辞儀をした二人は、ウエディングプランナーのいる部屋へ幸せそうに消えていった。

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