legal office(法律事務所)に恋の罠
「山崎家の暮らしは、夢谷での暮らしとは180度異なっていました」

失敗しても誰も怒らないし、和奏の代わりに怒られる人もいない。

100点以外でも、頑張れば誉めてくれる。

悲しいことがあれば励ましてくれる。

そんな当たり前のことが、和奏にとっては新鮮で、ありがたかった。

「ご飯も食べられるようになって、友達もできて。私には,本当に勿体ない環境だったんです」

当時を思い出して、目を潤ませる和奏の頭に、奏はそっと唇を寄せた。

「中学校の職場体験で、私は叔父の弁護士事務所を選びました。そこで困っている女性の相談に乗る叔父を見て、私も弁護士になろうと思ったんです。決して父親のためじゃない」

"そのための勉強は苦ではなかった"

と和奏は語った。

「だから、高校の3年間は勉強ばかりで、男っ気なんてどこにもありませんでした。だから、大学で小池くんと付き合ったときは、柄にもなく舞い上がってた気がします」

「妬いてしまうな。私ももっと早く和奏さんに出会いたかった」

肩を抱き寄せる奏に、和奏は抵抗することなく身を任せていた。

「だけど、それも長くは続かなかった。宇津井が、私に目をつけたから・・・」

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