月夜の砂漠に一つ星煌めく
言われたハーキムは、ポカーンと口を開けている。

恐らく母親が、おかしくなったのかとも、思っているんだろう。

「王子。これから私の事は、親戚のおばさんとでも、思って下さい。」

「何を言っているんですか!仮にも、王子の乳母ともあろう人が!」

ハーキムが、母親を説得している。

「王子だって、仰ってるだろう?自分は王子であって、王子ではないって。だったら、私も王子の乳母であって、乳母じゃないね。」

「は、母上!」

慌てて周りに人がいないか、確認するハーキムの姿が、やけに可笑しくて、二人にバレないように笑いを堪えるのが、やっとだった。

「そうですよね。ジャラール様。」

「母上!王子と付けて下さい!」

それも可笑しくて可笑しくて、とうとう笑っている姿を、二人に見られてしまった。

「ジャラール様……」

「許せ、ハーキム。笑うつもりなど、なかったのだが……」

だけどそこでも、思い出してしまって、俺はしばらく笑いが止まらなかった。
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