月夜の砂漠に一つ星煌めく
「ジャラール。そなたが無事、成人になる日を迎え、私は嬉しく思うぞ。」

「……有り難いお言葉、恐れ入ります。」

心から、喜ぶ事はできなかった。

敵国の子供であると知って、殺す事もできただろうに、母上のたっての願いでそれもできずに、手元で育てた気持ちは、どんなに苦しいものだったか。

ハーキムに後から聞いた話では、その北の国は今では同盟国になっていると言うから、恐らくこの王達のいづれかが、俺の本当の父親だと思うのだけど。

周りの人間は誰一人、その王の名を、俺に教えてはくれなかった。

一人くらい答えてくれるだろうと、いろいろ試したけれど、さすが宮殿で働く者達は、口が固い。

父上に“その名は、口に出すな”と言われているそうだ。


「これからも、この国の王子として、民の為に働く事を望む。」

「はい、肝に命じます。本日は、このように盛大な成人の儀を執り行って頂き、心からお礼を申し上げます。」
< 183 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop