月夜の砂漠に一つ星煌めく
“ジャラール!”

どこからか、アリアの声が聞こえた気がした。

気になって、後ろを振り向くと、街の人々の中に、あの舞踏団の姿があった。

みんな、驚いた顔をしていた。

まさか、あの夜一緒に過ごしたアリアの恋人が、この国の王子だったと言う事に、驚きを隠せないのかもしれない。

その中でもアリアは、無表情で俺を見ていた。


“なぜ、黙っていたの?”

そんな顔をしていた。

アリアの頬に、一筋の涙が溢れ落ちた。

“私を、騙していたの?”

そんな目をしていた。


言えなかったんじゃない。

言わなかったんだ。

王子ではない、飾らない自分を見てほしかったから。

そう思ったら、アリアと過ごした、何でもない幸せな日常が、頭の中を過って行った。

ああ、そうだ。


自分の道は、自分だけに与えられた道だ。

誰にも、自分の代わりはできない。

その道で、どんな生き方をするかが、一番大事な事なんだ。
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