月夜の砂漠に一つ星煌めく
そう言ってハーキムは、いつものように微笑んでくれた。


間もなく始まった宴の席では、近隣の王達の紹介を受けたものの、誰も自分の娘を紹介する方は、いなかった。

当たり前と言えば、当たり前か。

みんなの前で、“家臣になります”と宣言した王子に、自分の娘を、妃にさせたいなどとは、思わないわけだ。


「しかし、こうも見事に、掌を返すものですかね。」

ハーキムが、耳元で囁いた。

「王族同士の結婚など、そう言うものだろう。」

俺だけは、冷静に酒を飲んでいた。

「だとしても、一人くらい、ジャラール様のお人柄を見込んで、娘を差し出すような王は、いないのでしょうか。」

「ハーキム。私はそこまで、見込みのあるような人間ではない。」

「また。ジャラール様は、自分を卑下し過ぎです。」

ハーキムが俺の杯に、酒を注いだ時だ。


「お嫁さん、決まらなかったの?」

目の前に、女の子が立っていた。
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