月夜の砂漠に一つ星煌めく
「なあ、ハーキム。」

「はい?」

ハーキムを手招きして、小さな声でこう告げた。

「今、踊っている踊り子がいるだろう?」

「はい、金髪の。」

「ああ。俺の恋人なんだ。」

ハーキムは、持っている杯を、そのまま落としてしまった。

「はははっ!驚いたか?」

「そうでは、ありません!」

急に大きな声を出したハーキムの口を、慌てて塞ぐ。

「騒ぐんじゃない。皆に聞こえるだろう。」

そっと父上や王妃を見たが、気づいていない様子だった。


「ジャラール様。なぜ今まで、黙っておられたのですか?」

「うーん。相手が、俺をこの国の王子だと、知らなかったからかな。」

ハーキムは、口をあんぐり開けている。

「大丈夫なのですか?その踊り子。」

「アリアは王子ではない俺を、愛してくれた。金や地位が欲しく、て寄ってくる女とは違う。」

ハーキムは苦い顔をしながら、俺に酒を注いでくれた。
< 195 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop