月夜の砂漠に一つ星煌めく
「まさかあの踊り子を、妃に迎えるとか、言うのではないですよね。」

「そのまさかだ。」

すると急に、ハーキムの顔が目の前に現れた。

「どうした?ハーキム。」

「率直に言います。お止めください。」

「どうしてだ。」

「あまりにも、身分が違いすぎます。」

少しムッとして、ハーキムを横に、振り払った。

「アリアが、貧しい舞踏団の娘だからか。」

「いえ。例え貧しくても、この国の者であれば、まだジャラール様のご意見を、尊重いたしました。」

俺はゆっくりと、ハーキムを見た。

「どこの馬の骨とも分からない舞踏団の娘など、お妃にされるのは、反対です。」

「……言うな。」

「もしかしたら今までも、幾人もの男と、夜を共にしているのかもしれないのですよ!?」


ハーキムのその一言に、つい指に力が入って、杯の縁を壊してしまった。

杯の中に入っている酒の中に、うっすらと血が広がっていく。
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