月夜の砂漠に一つ星煌めく
ハーキムは膝を立て、俺から杯を奪った。

「……失礼しました。今は、祝いの席。後でゆっくり話し合いましょう。」

そう言ってハーキムは、自分が持っていた布を、怪我した指に巻こうとした。

「よい。直に止まる。」

「ジャラール様……」

代わりに置かれた杯に、また酒を注いでもらい、それを一気に飲み干した。


まるで、自分であって自分ではないよう。

自分の人生なのに、何一つ自分で決められない。


そのうちアリアの躍りが終わり、舞踏団のみんなが、自分に頭を下げた。

「とても良い躍りだった。さすがは、西洋一と評される舞踏団だ。」

「……恐れ入ります。」

アリアはそう返事をすると、スーっと後ろに下がって行ってしまった。

まだ、気づかないのだろうか。

そう思った矢先だった。


アリアが、こっちを見ている事に気づいた。

でもなぜか、悲しい顔をしている。

それを見て、胸騒ぎがした。
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