月夜の砂漠に一つ星煌めく
しばらくは入り口の側で、ネシャートの泣き声が聞こえていたが、兄ではない以上、近づく事も許されない。

俺にできる事があるとすれば、その入り口の側に座り、ネシャートが泣き終わるまで、その場にいる事しかできなかった。


「ジャラール王子?」

「あ、ああ。」

物思いに耽るのは、一人の時間が長いせいか。

「そう言えばそなたは、アラブの中でも1・2を争う美姫だそうだな。知っていたか?」

「知りませぬ。そんな事を言う輩が、おいでなのですか?」

ふと、ハーキムのワクワクした顔が、思い浮かんだ。

「そう言うな。それを楽しみにして、生きている者もおるのだ。」

ハーキムが可哀想だから、とりあえずフォローしておいた。


「それを言うなら、ジャラール王子の方です。」

「私が?」

「はい。アラブの中で1・2を争う美少年だと……」

思わず戸を開けて、振り向いたネシャートと、顔を合わせてしまった。
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