月夜の砂漠に一つ星煌めく
女中の姿が見えなくなっても、ハーキムはこちらを向こうとはしなかった。

「ハーキム、助かった。」

「はい。」

物々しい返事。

女中同様、何かあるとは思ったが、それは今聞いてはならないような、気もした。

「そう言えば、ハーキム。どうだった?頼んだ物は、市場にあったか?」

「はい。」

返事をすると、やっとハーキムはこちらを向き、胸元から頼んだ物を出した。

「こちらで、ございます。」

それは金色に光る、髪飾りだった。

「これなら、お相手様にも、気に入って頂けると、思います。」

「ああ、ご苦労。」

俺がその髪飾りを、受け取ろうとした時だ。


「ジャラール様。」

「どうした?」

「やはり、ジャラール様のお相手は、ラナーだったのですか?」

静かに語っても、その奥で、声が震えている事を、俺は気づいてしまったんだ。

「……そうだと言ったら、どうする気なのだ?」

その瞬間ハーキムは、少しだけ唇を、噛み締めた。
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