月夜の砂漠に一つ星煌めく
「……ラナーは、良き者です。」

「ああ。そうだな。」

「どうか、幸せにしてやって下さい。」

ハーキムは、頭を下げると、顔を見せないようにして、部屋から去って行こうとした。


「あーあ。お付きの者と言うのは、大変なものだな。」

私の言葉に、ハーキムが振り返る。

「私が誰の元へ通っているのか、それが本気なのか、地位は?私の妃になって、幸せになるのか。まるで自分の事ように、心配するのだな。」

「ジャラール様……」

「安心しろ、ハーキム。私の相手は、ラナーではない。」

「えっ……」

その時の、ハーキムの間抜けな顔。

肖像画にして、飾っておきたいくらいだ。


「他の者だ。さっきも聞いただろ。女中に知られては、厄介な事になる。それを申したら、ラナーが誤魔化してくれたのだ。」

「そう……だった……んですか……」

俺は、笑みを浮かべながら、息を吐いた。
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