月夜の砂漠に一つ星煌めく
悔しかった。

負けた事もそうだったが……


「好きで……王子になったんじゃない。」

俺は勝手に、王子にさせられたんだ。


「ジャラール様!」

「放っておけ、ハーキム。」

「ですが……」

「このような弱い者、おまえが駆け寄る程の、王子の器ではないわ。」

駆け寄ろうとするハーキムにも、こんな調子だ。


先生は剣を納めると、宮殿へと続く階段に、腰を降ろした。

「ジャラール王子。あなたは、ご自分の身分を、どう考えられるのか。」

「自分の身分?どうせ、王子だと言うのだろう。」

「では、王子とは?王子とは、何ですか?」

「王子とは……」

王の息子だと答えそうになって、止めた。

俺は王の子では、ない。


「なぜ、答えぬのですか?」

「……分からぬからだ。」

「分からぬ!?では、今から王子と名乗るのを、お止めになっては、如何ですか?」

これを聞いたハーキムは、先生の前に駆け寄った。
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