月夜の砂漠に一つ星煌めく
「ジャラール様っ!」

俺が宮殿に戻るのを、ハーキムが後から追いかけてくる。


そして、階段を昇りきったところで、侍従がやってきた。

「ジャラール王子。どうしても、ジャラール王子にお会いしたいと申す者がおります。如何なさいますか?」

「誰だ?私にそのような者は、まだおらぬと思うが。」

「はい。実は……宮殿で働く厨房の者でして……」

「厨房の者?」

もしかして、まかり間違って、俺に『夕食の献立は、何がいいでしょうか?』なんて、聞いてくるのか?

俺は不思議に思いながら、侍従と一緒に、厨房に行った。


「ああ、ジャラール様!」

俺を呼んだのは、小太りな親父と、細長い婦人だった。

「そなたか?私に用があると言うのは?」

「申し訳ございません。お忙しいのに。実は、家内が男の子を産みまして。」

よく見ると、婦人は小さい赤子を抱いていた。

「恐れ多いと存じますが、この子がジャラール王子のように、強くて優しい男に育つように、抱いてやってほしいのです。」
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