【完】さつきあめ〜2nd〜

ヒールの踵を鳴らして、こんなに誰かの為に身なりも気にせずに走り出したのは初めてだと今気づいた。

星の見えない空さえ、ネオンが照らしてくれる街で、あなたはわたしの探していた王子様のような人ではなかったけれど、それでも日に日にあなたへの気持ちは大きくなるばかりだった。こんな風に自分を見失ってしまうくらい、周りの目なんか気にせずに好きな人を追いかけてしまえるほど、自分に自制がなかったのかと初めて気づく。

「朝日っ!!」

その背中を見つけた時、無我夢中で気が付けば名前を呼んでいた。

街を歩く何人かは振り向いて、一瞬足を止めた後何事もなかったかのように自分の目的地へと足を向けた。
朝日は足を止めた後、ゆっくりとこちらを振り返り、驚いたような表情を浮かべた。
わたしはこの人の名を、直接こうやって口に出して、本人に向けて言うのは初めてだった。
それくらい、いつだって戸惑っていた。


「何やってんの、さくら」

「あの子とご飯に行くの?」

「はぁ?」

「あの子に才能があるって…双葉でナンバー1になれるように頑張れって…
あたしには期待してないけど、あの子には期待してるの?
朝日は、あの子が好きなの?」

どうしてこうなってしまったのだろうか。
子供のようにすがりつくわたしは知らないうちに泣いていた。
引き止められていきなり意味のわからない事を口にするわたしに、朝日はまた困ったような顔をした。

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