【完】さつきあめ〜2nd〜
ずっと良くなっていると思っていた精神状態が、朝日を前にするとあの日のようにおかしくなっていく。
もしかしたら朝日はそれを、自分のせいだと自分を責めていたかもしれない。

「う…ヒック…うぅ…」

泣いても困らせるだけ。なのに子供のように泣きじゃくるわたしを、朝日は自分の胸へ引き寄せた。

「さくら、お前一体どうしちまったの?おかしいぞ?」

朝日に抱きしめられると、まるで朝日の匂いに抱きすくめられて眠っていたあの日々を思い出す。
ずっとずっと子供みたいに、朝日にこうやって抱かれていたかったのに…。

「さくら…何もお前が無理をする事はないんだ…。
俺は別にお前にナンバー1になってほしいとか、俺の店で頑張ってほしいとか少しも考えちゃいねぇよ。
そんな事しなくたって、お前は幸せになる道が沢山あるはずだ」

優しい言葉とか、思いやりとか、そういうのを全部受け取れなかった。
わたしは乱暴に朝日の腕を振り払った。

困った顔ばかり浮かべてわたしを見つめる、朝日を睨みつけた。

「あたしの幸せなんかあたしが決める!!」

「お前の考えている事が俺には全然わかんねぇんだよ!!」

さっきまで困った顔をしていたのに、その表情に怒りが滲み出てきて、朝日は言い捨てるようにそう怒鳴った。
怒った後に、また眉毛を下げて、大きなため息を地面に向かって吐いた。

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