【完】さつきあめ〜2nd〜
沢村が迎えにきてお店に戻った後も、わたしは泣き続けたままだった。
不安定な精神状態だったわたしは何とか仕事をこなして、それでも周りから見れば心配されるほどおかしかったらしく、その日は珍しく沢村に飲みに誘われた。沢村という店長はそういう人間だった。キャストに何かあるといち早く気づいて、親身に相談にのってくれるタイプだった。
そこもまた、初めての店長タイプだった。
深海はどちらかと言えば口数の多くない人だったし、限界が来るまで、そっと見守っていてくれるタイプの人だった。
小林はお店以外ではキャストと一線を置くようなタイプだった。
沢村は見たまま、というのだろうか。この人の本質が、困った人を放っておけないタイプの人種なのだ。
沢村が連れてきてくれてのは、落ち着いた雰囲気のバーだった。
トリガーとは全然違う。中年の男性がひとりで切り盛りしているらしいそのお店は、いつか光と同じマンションで暮らしていた時、一緒に帰る為に光を待っていたあのバーに似ている気がした。
…なんて名前だっただろう。曖昧な記憶を繋ぎ合わせる。
あぁ…グラフ…か。光がマンションを勝手に引っ越してから、一度もそこへ足が向かう事がなかった。
こんな時なのに、光と過ごしていたあの日々を思い出してしまうなんて、本当にどうかしてる。
こんな時に、光の笑った顔ばかり、思い出してしまうなんて。
「お疲れさまです」
沢村はわたしと目が合うとにっこりと笑い、グラスを少し下にして乾杯をした。
不安定な精神状態だったわたしは何とか仕事をこなして、それでも周りから見れば心配されるほどおかしかったらしく、その日は珍しく沢村に飲みに誘われた。沢村という店長はそういう人間だった。キャストに何かあるといち早く気づいて、親身に相談にのってくれるタイプだった。
そこもまた、初めての店長タイプだった。
深海はどちらかと言えば口数の多くない人だったし、限界が来るまで、そっと見守っていてくれるタイプの人だった。
小林はお店以外ではキャストと一線を置くようなタイプだった。
沢村は見たまま、というのだろうか。この人の本質が、困った人を放っておけないタイプの人種なのだ。
沢村が連れてきてくれてのは、落ち着いた雰囲気のバーだった。
トリガーとは全然違う。中年の男性がひとりで切り盛りしているらしいそのお店は、いつか光と同じマンションで暮らしていた時、一緒に帰る為に光を待っていたあのバーに似ている気がした。
…なんて名前だっただろう。曖昧な記憶を繋ぎ合わせる。
あぁ…グラフ…か。光がマンションを勝手に引っ越してから、一度もそこへ足が向かう事がなかった。
こんな時なのに、光と過ごしていたあの日々を思い出してしまうなんて、本当にどうかしてる。
こんな時に、光の笑った顔ばかり、思い出してしまうなんて。
「お疲れさまです」
沢村はわたしと目が合うとにっこりと笑い、グラスを少し下にして乾杯をした。