【完】さつきあめ〜2nd〜
仕事で遅くならない限り、朝日は毎日家にいてくれたし
毎日同じ時間帯に家を出て、大体同じ時間に帰宅する。
どこにでもいるようなカップルに見えていたと思う。
朝日は心配症で、嫉妬深いところもあったけど、毎日が優しくて幸せな日々だった。

まともに男の人と付き合った事のない。わたしの初めての彼氏だった。初めての彼氏が朝日なんて、結構ハードモードな人生だとは思う。

朝日の腕を振り払い、右手に持ってたスーパーの袋を掲げる。

「お腹空いた?」

「おう、待ってたからな!」

「今日は~生姜焼きを作りまーす!ご飯炊いておいてくれた?」

「お前があれだけラインでご飯炊いておけってうるさかったからな。
てか生姜焼きか!いいな!」

「えへへ。待っててね。いま支度するから~!」

こんな生活をしていたら太る。とよく言っていたけれど、出勤前と出勤後にご飯を作るのをほぼ欠かさなかった。
大分食欲も出てきたと思うし、誰かの為にご飯を作るのは幸せだった。
目の前にいる朝日は、わたしのご飯を「うまいうまい」と食べて、休日はふたりで出かけて
一緒の家に帰ってきて、一緒に眠る。これほどの幸せはどこを探しても見つからないのでは、と思っていた。

幸せな生活の中にも不安は残る。
朝日が年明けに立ち上げようとしていた新店についてだ。
クラブ、皐月。ONEよりも大きな店にすると言っていたそのお店の看板に、朝日はゆりを選ぼうとしていた。
朝日の口から聞いたわけでもなく、あくまでも噂。
それでもわたしに声が掛かる事はなかったし、これから先もなさそうだ。
それが少し気にかかっていた。

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