【完】さつきあめ〜2nd〜
ゆりの大きく見開いた瞳が少し血走っていて、肩を掴まれる。
その力はどんどん強くなっていって、そこからまるでゆりの悲しさが伝わってくるようにわたしを掴んで離さなかった。
それは悲しくて、痛い。けれども彼女の中に眠る、切なる想いだった。
「ゆ、ゆりさん……」
VIPルームの扉が乱暴に開かれて、わたしの肩を掴むゆりの力が段々弱くなっていくのが分かった。
そこには息を切らした、光の姿があった。
「何してる?」
掴んでいた手を離して、ゆりはツンと顔を背けた。
「別に。お店にあなたの好きな女がやってきて、あなたに会いたいって言うからここで一緒に待ってただけだけど?
やだ、そんな息を切らして有明さんらしくもない……」
「だいじょうぶか?」
光はわたしの隣に座って、優し気な瞳で顔を覗き込んできた。
…だからどうしてそんな優しい顔が出来るって言うんだ。この人は最初から全て知っていたんだ。
許せない…そんな気持ちがこみあげてくるけれど、わたしにはそんな事を言う資格もなくて。
「ごめん、電話に出れなくて。ちょっと事務所で大切なミーティングがあって…」
「光……そうじゃなくて
どうして……」
「どうしてって何が?」
「どうして…こんな事するの…?
光と朝日は家族でしょ?
こうやって朝日を裏切るような真似…どうして出来るの?」