【完】さつきあめ〜2nd〜
「…下らない。
別に有明さんが誰を愛そうがあたしにとっちゃ知った事でもないけど。
いつかそれが身を滅ぼさない事だけ願ってるわ。
あなたとした約束だけは果たさせてもらいます。あたしはダイヤモンドグループで、この街で1番で居続ければいいだけ。
朝日が全てを失った時、頼りにするのは、あたしかあなたどっちかしらね?」
それだけ言い捨てて、ゆりはVIPルームから出て行った。
何も言えなかった。わたしはゆりに何ひとつ言い返す事も出来なかった。だってわたしに出来る事なんて何もない…。
涙ひとつも零れ落ちなかった。何も守れない。この手で守れる物なんて何ひとつなかった。それどころかあの人はわたしと同じ土俵に立つ事さえも許さなかった。
「……夕陽」
「触らないで!!!」
光の手が、触れようとしたのが分かったから、それを拒んだ。これ以上光の優しさに甘えられないのは知っていたから。
わたしはどれだけ朝日を、そして光を傷つければ気が済むのだろう。
光はソファーに寄りかかって、煙草に火をつけた。ふぅーっと息をひとつ吐いて、ゆっくりと口を開いた。
「ゆりはああ言ったけど、夕陽のせいじゃないよ。
俺と兄貴は夕陽がいなくたって、いつかこうなっていたんじゃないかな……。
あの人は小さな俺にとって光りだったんだと思う。羨ましい程に眩しい物だった…。
小さな時に何も手にしていなかった兄貴に全てを与えてあげようと思って生きてきた。
でも…ダイヤモンドに出資してくれた父さんだって…本当に愛してたのは兄貴の方だ。父さんがすべてを譲りたかったのは本当は兄貴だ。
あの人が本当に愛してた人は、兄貴の母親だったんだ。与えたいなんて小さい頃の俺の思い上がりだった。
さくらに関してだってそうだ…。
だからこそ……俺はあの人に負けたくない…」