【完】さつきあめ〜2nd〜
足を止め、その光景を見つめる。
スモークガラスの張ってある窓では車内の様子は見えない。だから朝日がゆりに気づいているのかさえ、分からない。
それでもゆりは暫くそこで立ち尽くし、ただただ朝日の車を見つめていた。
…ゆりさん、全然まだ朝日の事が好きなんじゃないか。そんな事考えなくたって、彼女の普段見せない顔を見れば分かる。
わたしが来る前、彼女は確かに朝日の1番近くにいる人で、朝日とゆりが想い合っていた事は決して消せない事実だから。
「さくら!」
わたしに気づいた朝日が、車の窓を開けて名前を呼ぶ。
それに気づいたゆりがこちらを振り返り、わたしを見つめた。
怒っているわけでも、睨みつけるわけでもなく、ただ悲しそうな表情でこちらを見つめ、すぐにネオンの光りの中に消えて行った。
決して誰にも言わなかった想い。だけど言わなかったからといって、そこに無い訳ではない。
切ないくらい朝日に寄せる想いに、きっと朝日は気づいていた。
「朝日、ゆりさんが……」
車内に乗り込みそう告げると朝日は「あぁ」と呟いた。
「気づいていたの?」
「気づかない訳あるか。
俺は、ゆりに優しい言葉をかけるわけにはいかない。
俺が同情でもすれば、あいつが救われるなんて思っちゃいない。
中途半端な事をすれば余計にゆりを傷つけるだけだ…」