私たちの六年目
"違う"


"そうじゃない"


そう言いたかったけど、それは声にならなかった。


もう一度逃げ出してしまえたら、どんなにかラクなのに。


「ちょっと、邪魔!」


突然背後から聞こえた声に、ビクッと肩が跳ねた。


歩道に突っ立っていたから、通行人に注意されてしまったようだ。


「菜穂さん、こっちへ」


そう言って崎田君が、私をとあるビルの駐車スペースへと誘導した。


私はなんだか崎田君の顔を見れずに、ビルの入口をただじっと見ていた。


「菜穂さんのあの態度で、大学時代の友人が好きなのは、すぐにわかりました。

その人と付き合っていないなら、僕にもチャンスがあるかもしれないけど。

あんな態度を取るくらいだから、何か訳アリなのかなって思って。

だから、その相手がどんな人なのかを知りたかった……」


すごい執念だよね。


その爽やかな見た目からは、全く想像が出来ない。


「飲み会に行ったら、男性が二人いました。

この二人のどっちかかな?と思ったけど、今日来てない人がいるとおっしゃっていたので。

その人の可能性もあるから、だから来ていない人の性別を聞いたんです」


うそ。


全然気づかなかった。


あそこであの質問が出たのは、そういう理由があったからなんだ。
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