私たちの六年目
なんで……?


なんで今さらそんなことを言うの?


さっきは"菜穂を渡さない"って言ってくれたじゃない。


私、すごく嬉しかったのに……。


「崎田君があんなにグイグイ来るのは、それだけ菜穂に本気なんだろうし。

だから菜穂も、崎田君とのこと真剣に考えてみたら?」


「し、真剣にって……」


「菜穂って、ずっと彼氏がいないだろう?

お前は充分いい女だし、恋人がいない方がおかしい。

俺は、菜穂に幸せになって欲しいから……」


秀哉の言葉は、私を思いやってくれていても。


私にとっては、ひどく残酷なものだった。


私が今までずっとフリーだったのは。


秀哉が好きだったからだよ。


秀哉が梨華のことしか見ていなくても。


それでもそばにいたくて、ここまで来たの。


他の人が目に入るなら、もうとっくにそうしてる。


こんな気持ちを抱えたまま、どうやって崎田君に向き合えって言うの?


「菜穂……?」


うつむく私の顔を覗き込む秀哉。


私は一度コホンと咳をして表情を整えると、ゆっくりと顔を上げた。


「そうだね……。

崎田君のこと、真剣に考えてみる……」


どんなにあしらっても。


どんなに冷たくしても。


それでもあきらめない崎田君。


そこまで私を思ってくれる人って、多分どこにもいない。


そんな人を好きになれたら、いつか私も幸せになれるかもしれないよね。


「わかった。

秀哉と二人で会うの……。

やめるね……」


これが、秀哉の望みなんだよね?


結局、私は……。


いつまで経っても、梨華以上にはなれないんだから……。
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