没落貴族の娘なので、医者として生活費を稼いでいます！
「ではこの話はここまでだ。俺は執務に戻る。おまえは？」

「僕は父上たちに顔を見せてから帰ります。午後には戻ると言ってあるので」

「そうか、随分熱心だな」


ラシェルが放ったセリフは一見感心しているようだが、ラシェルの顔は明らかに相手を皮肉っていた。


「ええ。あの方のことは尊敬していますから」

「まあいい。次帰ってきたときは久しぶりに剣の稽古でもしよう」

「はい。では失礼します」


突然の訪問者はそのままラシェルの執務室から出て行った。
その様子を見ていたラシェルは、訪問者が完全に立ち去ったあと小さく吹き出した。


「どうなされました、ラシェル様」

「いや･･･あいつは随分とレティシア子爵家のご令嬢に執着しているようだ」


自分の弟は変わった。昔は周りの者に気遣いなどなかった。自分は第二とはいえ王子だ。だから誰も逆らえないとよくわかっていた、そしてそれを利用してわがままばかり言っていた。

それが今ではどうだろう。滅多に王宮には帰ってこなくなったが、帰ってきたときはどの身分の者にも平等に接するし、使用人たちにお礼を言うようになった。
以前の弟なら考えられなかったことだ。

そんな弟を変えたのは間違いなくレティシア子爵家の長女、シエルだ。


「今は物珍しいだけでしょう。すぐの気づかれます落ちこぼれの貴族にだまされているのだと。それにしても･･･この国の王子二人を手玉にとる気なのか、」

「それは暗に俺の弟はレティシア子爵家の娘にだまされるほど能なしだと言いたいのか？」

「いえ、そのようなことは･･･」

「なんであれあの令嬢と関わってあいつは変わったんだ。実際に俺たちの目で確かめようじゃないか、どんなやつなのか」

「はい」







「おまえを変えた女がどれほどのやつか確かめさせてもらうぞ、ラインハルト」


弟の名をつぶやくとラシェルは目を細め、ほくそ笑んだ。
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