没落貴族の娘なので、医者として生活費を稼いでいます!
***
王都にある王宮でそんなやりとりがあったなんてことも知らずに、第四区にある小さな診療所の主は今日も診察に追われていた。


「ーーーあとは安静にしていれば1週間ほどで直るでしょう。湿布だけは必ず毎日張り替えるように」

「はい」

「とりあえず湿布も一週間分出しておきます。なので1週間後になっても治らなければもう一度来てください」

「わかりました。ありがとうございます」

「いえいえ、お大事に」


午前中最後の患者が帰ると、シエルは大きく息を吐いた。

「ふぅー、疲れた」

「お疲れ様、シエルちゃん。今日はハル君がいなくて大変ね」

「そうですね。改めてハルの存在性を再確認しました」


本日、私の弟子でもある医師見習いのハルは実家の用事で午後から来ることになっていた。
ハルの実家がどこにあるかは知らないし、何時頃に来るかは予想できない。

「にしてもハル君どんな用事なのかしら」

「さあ・・・そんなこと興味ないです」


まったく、シエルちゃんは無関心すぎるっ、といっているノーラさんは放っておいてコーヒーを飲む。


ハルは一般人としてここに来た。親の職業を聞いても庶民だとしか言われなかった。
連れてきた本人でもあるオーガストでさえ教えてくれなかった。

だから一応は庶民だと受け入れているが、本当は貴族の息子だと思っている。
初対面の時のあの尊大な態度、庶民を見下す目。あれは貴族特有のもの。


正体を話してくれないのはあまり信用されていないのかと、落ち込むこともあるが私にとって大切なのは今現在。
今、ハルが私の元で必死に医学を学んでいる、それだけでよかった。

ハルの正体がまったく気にならない訳ではないが、私は今のハルを見てあげたいし、評価したい。
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