没落貴族の娘なので、医者として生活費を稼いでいます!
「ただいま戻りました!」


昼食のあとノーラさんと談笑していると、裏口からハルの声がした。


「おかえり、ハル」

「はい、午前中は抜けてしまい申し訳ありません」

「大丈夫、気にしなくていい」


「シエルちゃんがハル君がいなくてさみしいって言ってたよ」

と、突然ノーラさんがひとのわるい笑みを向けながらハルに言う。

「え?そうなんですか、シエルさん」

それを聞いたハルはどこか嬉しそうに聞いてくる。


「いや、そんなこと言ってないし。ノーラさん、勝手なこと言わないで。ただ少し忙しくて、ハルの存在って大きいんだなって思っただけだし・・・」

途中からごにょごにょと言い訳みたいになってしまったが、ハルはちゃんと聞き取ったようで、

「存在の大きさに気づいたんですか?それって僕のこと頼りにしてくれているってことですよね?」

「う、うるさいわね!!」

「もう、可愛いわねシエルちゃん」

「~~!!」


こういう時の二人ほどたちが悪い者はいない。これは無視するしかない。


「ほら、午後の診察始めるから。はやく準備して」

ハルにそれだけ言うと私は診察室の方に向かった。



「まったく、シエルちゃんは素直じゃないから」

「シエルさんが素直じゃないのはよくわかっていますから。でも素直に嬉しいなあ」

シエルが去ったあとハルはとても嬉しそうに微笑んでいた。
毎日厳しく自分に医学を教えてくれるシエルはハルにとって、かけがえのない師匠だ。
そんな師匠に頼りにされて嬉しくない人間がどこにいるだろう。

この診療所に初めて来たときはまったく知らなかったが、シエルは一切弟子をとらないことで有名だった。そんなシエルが師匠に当たるオーガストに頼まれたからとはいえ、弟子をとったのは第四区ではちょっとした事件だったらしい。

ハルがそのことを知ったのはここに来てから1年たった頃だった。
そこからハルの中でシエルの弟子ということは最大の誇りとなっていた。


(僕はシエルさんにとって唯一の弟子。どんなときでもシエルさんにとって自慢の弟子でいたい・・・)


「ハル君?そろそろ診察室行こうか」

「はい」

こうして今日も午後の診察が始まった。
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