没落貴族の娘なので、医者として生活費を稼いでいます!
***

先週までは春とはいえまだまだ肌寒い日もあったが、今週は暖かい日ばかりで暑いと感じる日もあったくらいだ。

暑かろうが寒かろうが、シエルの診療所には沢山の患者が来る。
しかし風邪がはやりやすい冬に比べれば今の時期は患者は少なめだ。


「今日はなんだか静かだ」

「ご近所さんがお茶をしにきていないからですね」

まだ午前の診療時間だが、今診療所にいるのはシエル、ノーラ、ハルの三人だけだった。
こんなことは滅多にない。


「患者さんが来るまで仮眠しようかな」

シエルがあくびをしながらつぶやいた途端、


ガチャツ

診療所のドアが開いた。

「はーい、今日はどうされましたー?」

シエルがそう言いながらドアの方を振り返ると、そこには身なりのよい二人の青年がたっていた。


二人とも高身長でスタイルもいい。
片方の青年はきれいな銀髪に蜂蜜色の瞳、もう片方は薄茶色の髪にどこまでも蒼い瞳。
身なりだけでなく顔もいい部類に入るだろう、貴族の令嬢たちが見たら大騒ぎしそうな容姿端麗ぶりである。


「・・・どちら様で?」

青年たちにそう聞きながらも、なんとなく正体はわかる。確実に貴族だろう、それも第一区に家を持つ。
第四区の人々が一生働いても手にできないくらい上質の絹でできた服、嫌みにならない程度の宝石の装飾品。それらを身につけた彼らが貴族でないはずがない。

しかし王都の中でも一番貧しく、彼らが暮らしているであろう第一区とは雲泥の差の第四区に何の用だろう。高みの見物しかしない第一区の貴族さまが第四区を助けたりしてくれるはずがない。


「患者にたいしてずいぶんな態度ですね。誰に対してもそんな高圧的な態度なのですか?第四区の医者と言っても貴族、庶民は見下しているというところでしょう」

銀髪の青年が口を開いたがまったく答えになっていない。それどころか私に対して随分高圧的だと文句を言ってきた。


(おまえらが貴族だからこんな態度なんだよ。お高くとまっている貴族様は嫌いだ)

しかし相手は絶対にレティシア子爵家では太刀打ちできる相手ではない。
家に迷惑はかけられないから、ここはあくまでも一医者として対応しなければ。
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