涙の裏側    ~もう一人の私~
「コーヒーで良い?
俺、これでもコーヒーを淹れるのは上手いんだ。」

ニッコリ笑って席を立つマスターについて行くと

「座ってて良いよ。」って

「見たら迷惑ですか?
ダメでないなら、マスターが淹れるのがみたいな。
誰かが私の為にしてくれるのが嬉しくて。」

小さい頃から、私の為にご飯を作ってくれる事のない母親。

ご飯は、家政婦さんが作っておいてたのを食べる。

母親が作るのは、咲々の野菜スープとお弁当。

お家に帰れない咲々の為に、少しでも家庭的な愛情を与えたいと。

病院で食事をとる親子3人。

そこには、私の居場所はない。

小さい頃からずっとだから……

羨ましいとか、淋しいなんて思ったことはない。

そんなものだと思ってるから。

そう思って育ったはずなのに…………

いつからだろう?

あのお家が、広く寒く感じたのは。

それから直ぐ家を出て、一人暮らしを始めた。

狭いアパートのようなマンション。

隣の人の生活音が聞こえる建物。

部屋にはいっぱいのぬいぐるみをおいて。

あれからずっと家に帰ってない。

咲々に逢ったのも…………その頃が最後。

もう数年、顔を見てないの。
< 45 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop