涙の裏側    ~もう一人の私~
一人…………物思いに更けながら

マスターの淹れるコーヒーを眺めた。

「大丈夫?」

コトンと…………カップとシュガーを置いて

「ミルクがないんだけど…………
牛乳でもいい?」って。

コーヒー牛乳なんて、ホントに子供扱いだけど

今は、子供扱いが嬉しい。

「うん。」

思わず返事も子供っぽくなる。

「熱いからヤケドしないでね。」

ひとくち口に含むと

「あぁ………美味しい。」

自然に出た言葉。

「マスター………………ありがとう。」

それだけ言うのがやっとで……………涙が溢れる。

私の為に淹れてくれたコーヒー。

お店で、お金を払ってでもなく………

私用に牛乳を入れて。

隣に座る彼は、何を話すわけでもなく

ポンポンと頭をさわって安心を与えてくれる。

ハラハラ落ちる涙を拭うこともせず………子供のように泣きじゃくった。

幸せの涙なんて…………落とした記憶はなかった。

いつも流す涙は………

悔しさや負けたくない時のものだから。

泣きながらも飲みほしたカップを置くと……………

もう一度ポンっとさわって、彼の胸に頭を引き寄せた。

顔を見ないように…………腕だけでそっと…………。
< 46 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop