恋と眼鏡
まあもっとも、ほかの女中にも使いなさいって軟膏が支給されているが。

けれど、わざわざ呼んで塗ってくれるのは私だけだ。



最初、呼ばれたときは怯えたものだ。

旦那様にひとり、夜、部屋に呼ばれる。
そんなの、なにをされるのか決まっている。

嫌、だけれども拒めばまた、屋敷を追い出される。

びくびくしていた私に祐典さまはあの日も、おかしそうに笑った。

「なにも取って食ったりしませんよ」

そっと手を取られただけでびくりと背中が跳ねる。
祐典さまは私を怖がらせないようにか、優しく笑って手の上に軟膏を載せた。

「酷い手荒れですね」

ひび割れに軟膏がしみて身体がびくびくと震える。
その当時の私の手はしもやけで腫れ上がっていた上に、あかぎれだらけであちこちから血が滲んでいた。
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