恋と眼鏡
「ほら、逃げますよ。
早くしないと建物が崩れ落ちる」

「……嫌」

「加代?」

引っ張られた手を振り払うと、祐典さまが怪訝そうに私の顔をのぞき込んだ。

「嫌です。
加代はここで死ぬんです。
おひとりで行ってください」

「なにを言っているのですか?」

一歩、一歩。
少しずつ、後ろに下がって祐典さまから遠ざかる。

「加代はここで死ぬんです。
祐典さまがご結婚されるのなんて、見たくない。
だって加代は――祐典さまが、好き、だから」

「加代!」

なにが起きたのかわからなかった。
逃げようとした私を引き留めるように、掴まれた手。
じんじんと内側から熱を持つ頬にそっと手をふれる。
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