バンパイア・ トラブル

面倒くさいことになった。

ほどなくして玄関のチャイムが鳴る。

おれはため息をつきベッドから立ち上がると、仕方なくアパートのドアを開けた。



「悪いな、ひかるちゃん………」



おれは云ったが、息を飲んだ。



「千波礼子!」
「突然、ごめんなさい」



千波礼子が玄関に立っていた。

手にはスーパーのレジ袋を下げている。




「小吹さんと吉沢さんに訊いたんです。笠原さんの家」



小吹が意地悪い笑顔を浮かべ、吉沢ひかるとハイタッチしている様子が脳裏に浮かぶ。

普段から真面目に相手を探せと口うるさい奴らだったからな。


あいつらめ………。


おれは脳内でふたりを呪った。


そんな事は知らない千波礼子がおれを見つめ口を開く。



「具合はどうですか?この前の夜のせいですよね?教科書販売の時も、マスクの学生さんがたくさんおられましたから」



礼子が云った。



「良かったら召し上がってください」



礼子はおれにレジ袋を押し付ける。



「レトルト食品と飲み物です。他に何か欲しいものはありませんか?買ってきます」



礼子の瞳は、どことなく心配そうだ。
いつも表情を変えない女なのに。


かわいいな。
こいつ、こういう表情もできるじゃないか………。


このまま帰したくない。




「こういう時は、手料理が食べたいな」
「じゃあ作ってきます」
「あがれよ。材料はあるから」




嘘だ。
材料なんてない。

おれは料理しないから。

礼子はおれを見つめる。



「わかりました。笠原さんが、そうおっしゃるのなら」



礼子は頷いたが踵を返す。



「材料はやっぱり買ってきます。少しだけお待ちください」

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