バンパイア・ トラブル
昨夜、おれはあれから夜中近くまで倒れていた。
通りかかったカップルが倒れたままのおれを見つけ悲鳴をあげ、その声で気がついて起きた。
救急車を呼ぶと心配していたが、おれは気持ちだけを受け取って断る。
女の子に笑顔見せると顔が赤くなったようだ。
おれをうっとりと見つめている。
それに気づいた彼氏とケンカを始めている間に、おれは自宅へ帰った。
モテすぎなおれは罪作りだな。
そんなこともあったが、次の日も学校で教科書と辞書の販売だ。
礼子とおれで現場に向かう。
本部勤めだろうが人手が足りないんだから現場仕事だ。
でもまあおれにはその方が性に合ってる。
室内でパソコンと睨めっこ、座りっぱなしなんてごめんだ。
花粉症の季節だからなのか風邪引きかはわからないがマスクをつけた学生が多かったな。
とりあえず注文数の教科書を裁き終え自由購入の辞書だが、こちらはさっぱり売れない。
「今は紙の辞書は売れませんね」
礼子が辞書の入った段ボールを見つめ口を開く。
昨夜のことについては全く触れない。
おれはその程度にしか見られていないようだな。
だがその上から見下された感じがたまらん。
絶対、落としてやるからな。
「電子辞書の方が便利だからな」
おれは涼しく、なんでもないように答える。
礼子は少し不満そうだ。
おれがクールだからではなく返答にだ。
「わたしは辞書をペラペラめくったりするのが好きなんですが、電子辞書はそういう楽しみが半減しませんか?」
「そういう楽しみ方もあるが、早く意味を知りたいときは電子辞書の方が便利だろ?」
「そういうものなんでしょうか………」
礼子は首を傾げ何か言いたげだったが結局、何も云わなかった。
帰り道、おれは営業車を運転しながら助手席の礼子に訊ねる。
「礼子はどんな本が好きなの?」
「何でも。今は恋愛小説と漫画が好きでよく読んでます」
意外だった。
てっきり哲学とか、思想関連かと思っていたから。
礼子は予想していたのか小さく笑う。
「ドストエフスキーばかり読んでいるわけではありませんよ」
他に絵本も読むという。
「そういや初日にも云ってたよな。本当に活字中毒なんだな、礼子は」
礼子は運転中のおれを見る。
「笠原さんは、どんな本がお好きなんですか」
「おれ?おれは………」
もちろんエロいお姉さんの本だ。
口に出しては云わなかったのだか、礼子は察したようだ。
「笠原さんらしい本だと思うことにします」
「うん。そういうことにしておいて」
おれは頷くと会社への帰路についた。
くしゃみをする。
鼻がムズムズするな、花粉症か?