夢物語
 「……遅かったじゃない。何か甘いハプニングでも?」


 車に戻ると、全員にやにやしながらこっちを見ている。


 部屋に送るだけにしては若干時間がかかり過ぎているし、こういう想像に至るのも当たり前だろう。


 これまで私と西本くんが仲良しだったのは、誰もが知る所だし。


 「酸いも甘いもあったらいいですけどね~。酔っ払いのお守りは大変でしたよ~。鍵がどれだかも解らなくなるし、なかなか家には入られないし」


 笑って再び後部座席に座る。


 努めて冷静に、何事もなかったかのように。


 日頃の行ないがよかったこともあり、周囲はからかっているだけで、本気では疑っていないだろう。


 動き出した車に揺られ、窓の外の景色を眺めながら胸を落ち着ける。


 最初はドキドキしていたけれど、鼓動は次第に収まり……やがて虚しさに包まれ始める。


 ……どうしてあんなことしたのだろう?


 これまで築き上げた友情を、一歩間違えたら台無しにしてしまうような行為を、西本くんはどうして?


 酔った上での悪ふざけにしても……。


 これから今まで通り接することはできるだろうか。


 せっかくの友人関係を壊してしまうようなことをした西本くんに対し、怒りすら覚えていた。
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