夢物語
 「嫌ですか?」


 すがるような目で見つめられるけれど、


 「からかってんの? 年上だと思ってばかにしないでよ!」


 寂しい独身女だと決めつけて、からかわれているのかもしれない。


 毅然とした態度で臨もうとするあまり、ついきつく言い放ってしまった。


 「ふざけてなんかいないですよ。俺本当に、冴香さんが欲しい」


 「そういうことをするために、彼女がいるんでしょ!」


 はねのけた。


 「もう、部屋まで送り届けたから、私帰るね!」


 このままここにいたら、取り返しのつかないことになる。


 私は急いで部屋を飛び出した。


 エレベーターを待っている間に、追いかけてきて追いつかれるかもしれない。


 隣にある階段から地上へと駆け下りた。


 そうそう、マンションの前には松元さんたちが車で待っている。


 これ以上遅くなれば、怪しまれる。


 いや、もう十分に遅くなっているし怪しまれているかもしれない。


 とりあえずは急いで戻らなくては。
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