夢物語
 「冴香さんを、このまま独り占めしていたい」


 別れ際、唇を重ねた後、私を腕の中に閉じ込めながらそんなことを口にする。


 (自分は、私だけのものじゃないくせに)


 抱きしめられながら、ふと思ってしまう。


 いくら願っても、この人を独占できない。


 私だけを見てほしい。


 でもそれを口にするのが怖い。


 決断を迫ってしまえば、その答えがどう返ってくるか……。


 「来週、三連休だね。たまには競技以外の場所にも遠出しようか」


 「え、来週……」


 来週は秋の三連休。


 地震の影響でその直後は各地の大会は中止に追い込まれたものの、今週辺りからそろそろ復活傾向。


 三連休はたまたま大会の予定などは入っていないので、会えないと思い込んでいた。


 サークルの都合がない時くらいは、彼女と一緒にいてあげなければいけないだろうし。


 「連休なのに、いいの?」


 「連休だから会えるんだから」


 この時期まだ繁忙期には入っていないし、三連休だし。


 でもそういう時だからこそ、彼女とは?


 そうか、シフト制勤務らしい彼女の都合がつかず、だから私を誘っているのかも?


 ……私は代用品?
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