夢物語
 何回か誘われたけど、西本くんの部屋でそんなことをする気分にはならないこともあり、逢う時はホテルを利用している。


 いずれにしても誰かに見られるリスクは負うのだけど。


 ……会いたいという気持ちは止められない。


 二人きりの世界に浸りたいという願いは消せない。


 「冴香さんの昔の男って、見てみたいな……」


 背中から抱き着き、神に触れながらそんなことを口にする。


 「もうどこにいるのか……。生きているかも知らないし、無理」


 「まだ覚えてる? その人がどんな風に冴香さんを、」


 「忘れた」


 忘れてなんかいない。


 忘れたふりをしているだけ。


 でも今はもうどうでもいいこと。


 腕を伸ばし、枕もとの灯りを消してしまう。


 あの男は私より八つ年上で、西本くんは八つ年下。


 でも私と関係を持っていた時のあの男は、今の西本くんよりもずっと若かったんだ。


 抱きしめられる腕の強さを感じながら、ふと考えた。


 まだ大学を卒業したばかり、二十歳そこそこの私にとってあの男はまさに大人の男だった。


 何も知らない私に、男女の結びつきをあれこれと。


 大人だと思っていたあの男よりも、今の西本くんのほうが年上だとは、なんか違和感がある。


 それだけ私が年齢を重ねたということなの?
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