夢物語
 ……合格発表、そして合格祝いのパーティーの翌週。


 私は徒歩で、最寄り駅に向かっていた。


 札駅、つまりJR札幌駅の改札を出た辺りで、正午に待ち合わせ。


 今は午前十時なので、まだ二時間ある。


 最寄駅から札駅までは15分もかからない。


 ちょっと早めに家を出て、一時間半くらいの空き時間は札駅界隈で買い物でもしている予定。


 正午に待ち合わせて、制服の試着に連れて行く約束をしていた。


 本来ならば保護者の役目なのだけど、今週は西本さんが出張で都合が合わない。


 代わりに私が行くこととなった。


 「真由先生。帰りに映画見に行かない?」


 「映画?」


 「うん。映画って一人じゃ見に行きにくいし……。先生が嫌でなければ」


 ちょうど公開中のアメリカのアクション映画で、私も興味あったのでご一緒することに。


 空は快晴。


 三月末にしては気温の高い、穏やかな春の日。


 桜の開花はまだまだ先だけど、雪もほとんど溶けて季節は次に向かいつつある。


 大学の卒業式も終え、四月一日からの社会人生活前、人生最後の春休み。


 将来に不安を抱えつつ、残されたわずかな休暇を惜しみながらも楽しんでいた。


 今日は八歳年下の元教え子とお出かけ。


 何かが起こりそうな胸騒ぎを感じるのは、春の陽気のせいだろうか。


 「そうだ」


 何となく札駅集合にしたけれど、二人とも最寄り駅は同じなのだから、集合場所は最寄り駅でよかったのでは。


 歩きながら、当時使用していたPHS(携帯電話の前に流行していた移動式電話)で優くんの自宅に電話をかけてみたけれど、出ない。


 こんなに早く家を出て向かうはずはないと思うし、まだ寝ているなどで家にいるか、ちょっと外出していても一旦家に戻るはずだと推理し、家に行ってみようと思い立った。


 歩いてそう遠くない距離なので。


 そして一緒に歩いて出かければいいと。


 急な思い付きで方向を変えてみた。


 ……そんな気まぐれが私の人生を大きく変えるとは、この時夢にも思わずに。
< 278 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop