夢物語
 「ドア、空いてるよ」


 玄関前に停められている、西本さんの車の助手席に乗り込もうとした時のことだった。


 (優くん……!)


 車から十数メートル離れたところに、自転車に乗ったままこちらを見ている優くんの姿があった。


 「……!」


 優くんは即座に全てを察したらしい。


 青ざめた表情を浮かべたまま背を向けて、全速力で自転車を漕いで去って行った。


 「どうしたんだ優の奴。どっか行っちゃったけど」


 西本さんは息子の微妙な心情を全く察していないようで、不思議そうな顔をしていた。


 優くんのことは気に留めることもなく、西本さんは私を送り届けるため車を発進させた。


 優くん、ごめんね……。
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