夢物語
 「僕が間違っていたのかな……。優は真由とも仲良くしていたから、もう一度温かい家庭を築けるかと期待してしまった。もうちょっと待つべきだったのか……」


 西本さんは優くんの私に対する思慕に、全く気付いていなかった。


 それゆえ優くんの反抗の理由は、亡くなった母親を差し置いて再婚しようとしていることに対する自分への怒りだと信じ込んでいる。


 それもゼロではないけれど、優くんの怒りの最大の理由は……私だ。


 かつて約束通り、高校の合格祝いとしてFC北海道の入場チケットをプレゼントした。


 もう私は一緒に行くことはできないけれど、誰か友達とでもいっしょにと願ってペアチケットを。


 西本さん経由で渡してもらったのだけど、チケットは翌朝、家の廊下にビリビリに破られて散乱していたそうだ。


 ただ捨てるだけならこっそりどこかのごみ箱にでも捨てればいいこと。


 なのにそのようにこれ見よがしに廊下に破り捨てたということは、私への怒りの表れだ。


 西本さんは再婚を目論む自分への怒りだと判断していたけれど、私には分かる。


 これは私への抗議行動だ。


 自分の傷がいかに深いかを私に見せつけている。


 「三回忌を終える前はと、必死で自分を抑えていたつもりなのだけど……。優には通用しなかったようだ」


 西本さんは苦笑する。


 「私も考えが甘かったです」


 優くんの怒りは予想以上だった。


 いずれ分かってくれるかと楽観視していた面もあったけど、時間が経つにつれて余計こじれてきているのを感じる。


 「優が許してくれるまでは、真由と会うことを控えようかとも考え、この旅行で相談するつもりだったのだけど……。でも真由の顔を見ると……やはり無理だと思い知った」


 西本さんは私を引き寄せた。


 「もう一人では生きられない」


 唇が重なる。


 一人で生きられないのは……私も同じ。


 旅館の敷布団に重なる体。


 浴衣の隙間から手が忍び込み、帯は解かれ肌が露わになる。


 優くんに対してやましい気持ちがあるほどに体が火照る。


 以前は求められることで必死だったけれど、今は求められる以上に私からも求めるようになって……。


 一つになれる喜びを知れば知るほど、優くんの面影は少しずつ薄れていった。
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