クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
「栂野さん、この度は本当にありがとうございました……!!……わたし、今から行かなければいけないところがあるので、お礼は後日にさせて頂いてもよろしいでしょうか……?」
遠慮がちにそう告げると、彼の表情の色がすっと消えたように見えた。
わ、わたしなにかまずいこと言ったかな……?
後日なんて遅い、今すぐしろ、と思ったかな……?
でも、今日中にしなければいけないことだから仕方ないのだ……。
「……彼氏のもとへ行くのか?」
確信めいたような口調に、黒真珠の瞳に見つめられそれだけのことなのに胸が騒いだ。
栂野さんは見れば見るほど綺麗な顔をしているなと改めて思わされた。
「か、彼氏なんていません……っ!!……その、引っ越しの準備をしなければいけないので……」
昨日の記憶をたどってみる。
そういえば、栂野さんの『彼氏の家にでも行くのか』という言葉のあとにわたしは泣いてしまっていた。
だから彼がそう勘違いしても仕方のないことだった。
「……そうか。それならその前になにか軽く食べるといい。お腹空いてるだろう。冷蔵庫をてきとうにあさってくれ。たいしたものは置いてないが」
返された言葉に、言葉も出ないくらい驚いた。