輪舞曲-黒と白のcaprice-
「……ハァ、ハァ……」
従来であれば、指一本すら動かす事など出来ない程の大怪我。
それを何とか誤魔化しでやり過ごしていたが、先程からポタポタと真紅の雫石が溢れ外套の中に堪る。
暫しの乱闘の末の代償であるが、任務遂行に比べれば随分と軽い代償である。
そう頭では理解しているつもりだけれども、身体は悲鳴をあげつづけているようだ。幾度も倒れ落ちそうになりながら歩き続ける。
月さえも見えない、暗雲が立ち込める夜。粗い息遣いだけが静かに谺されては分解され空気に溶けてゆく。
『…本当に動けるの?甘んじてあの場に眠りついていた方が良かったんじゃないのかな』
傷口を抑え、蹲りかけるあたしの耳元で囁かれた皮肉。忘れていた、何時ものようにあたしは独りなのではなかった。
「…あ?」
無理やり意気込んで睨み付ける相手、それはまるで流れるようにさらさらとした漆黒の長髪に血液のように紅い瞳。
嘲笑するかのようにせせら笑い、奴はあたしを見下し続ける。