クールな御曹司と愛され新妻契約
「そういうわけにはいきません。それじゃあ、俺の気がおさまらない」

「それでも。千景さんは、ここにいてください」

彼の仕事は、この会社主催のパーティーを成功させること。

その最も大事な〝仕事〟を成し遂げるべき時に、千景さんの足を引っ張るような偽物の妻は邪魔なお荷物に過ぎないのだから、その偽物の妻の為すべき〝仕事〟は、自らここを去ることだ。

素直じゃない行動なのは、わかってる。だけど……。

「今は……お互いのことではなく、お互いの〝仕事〟を優先すべきです。
だって、私たちは〝仕事〟に打ち込むために夫婦になったんですから」

「――っ!」

顔から全ての表情を無くしたような千景さんが、私を振り仰ぐ。


「千景さん、お仕事お疲れ様です。最後まで妻として付き添うことができず、大変申し訳ありません」

私は深く頭を下げ、千景さんから逃げるように踵を返す。

人目を避けるように俯きながら早足でホテルのエントランスへ向かうと、後悔の念に苛まれながら、車寄せに停車していたタクシーへ乗り込んだ。
< 140 / 192 >

この作品をシェア

pagetop