クールな御曹司と愛され新妻契約
離婚について尋ねた方とは別の担当者は、親切に真っ白な婚姻届を一枚、カウンターに置いてくれる。

「い、いえ。婚姻届は……必要ない、です。ありがとうございました」

怪訝な表情で「え?」と聞き返す女性に素早く頭を下げると、すぐに踵を返す。


婚姻届が受理されていないって、つまり、どういうこと?

心臓がやけにうるさく鳴り響く中、自宅の……否、千景さんの家の玄関へ上がる。

陽も大分傾いてきている。千景さんが帰宅するまで、あまり時間がない。

私は激しく混乱したまま、スリッパの音をパタパタと響かせながら、千景さんの私室のドアノブに手を掛ける。

お掃除でもないのに入ってしまって本当にごめんなさい。

そう心の中で謝罪しながら、急いで足を踏み入れ、パソコンが置かれたデスクの隣にあるキャビネットの前へ立った。

そして。この家で同居させてもらうことになった時、『大事な契約書類は全てここに揃っています』と説明された引き出しへ、そっと手を伸ばす。
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