クールな御曹司と愛され新妻契約
強く瞑った視界の暗闇に、なぜだか彼が喉を晒して水を飲む姿が鮮明に描かれ、くらくらする。

私が内心『ひゃああっ』と悲鳴を上げている間にバスルームでパジャマを着てきたらしい彼は、「もう目を開けても大丈夫ですよ」とクスクス笑いながら言って、恐る恐る覆った両手を離した私の前に座った。

「そういえば、こういうことは初めてですね。ドラマなんかではよくある風景なのに」

濃紺のパジャマを纏った千景さんは、ダイニングテーブルに両肘をつき長い指を組みながら、楽しげに口元を緩める。

確かに、ドラマに限らず少女漫画でも同居といえば定番の裸でバッタリだが、いざ自分の眼前で起きるとこんなに破壊力があるものだとは思わなかった。

実家で父がお風呂上がりに上半身裸でビールを飲んでても、『もう、お父さん服着て!』程度にしか思わなかったのに、千景さんではもちろん全然次元が違うわけで。

未だドキドキしている心臓に困りきりながら、目の前の美青年から目をそらしつつ相槌を打つ。

「そ、そうですね」

「少しはドキドキしてくれました?」

「えっ」

悪戯っぽく問われて、今度は私がきょとんとする番だった。
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