クールな御曹司と愛され新妻契約
「わかりました。お忙しい中、お手数をお掛けしてしまいすみません」

「いえ。なるべく早く準備できるように努めます」

彼は謹厳実直な様子で頷く。

その不自然さに内心疑問符が浮かびつつも、やっぱりこういうのはご家庭それぞれだものね、と一人納得しながら、スケジュール帳をパタリと閉じた。

「では私も、お風呂をいただきますね」

微笑みかけると、千景さんは「行ってらっしゃい」と愛おしげに二重瞼を細める。

送り出し迎える側の私が、彼からの『行ってらっしゃい』と『お帰り』をもらうのは、いつも夜のこの時間だけ。
それが、なんだか特別なことのように感じて面映ゆい。

くすぐったい気持ちになりながら、私は頬を緩めて席を立つ。



「……こうなれば、もっと強引にいくしかないか」

ダイニングテーブルを離れた私の耳には、難しい顔をした千景さんがポツリと呟いた言葉は届かなかった。


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